「人間のパフォーマンス向上の心理学:マインドフルネス―アクセプタンス―コミットメント・アプローチ」(第2章要訳)

 

Gardner, F. L. & Moor, Z. E. (2007). The psychology of enhancing human performance: the mindfulness-acceptance-commitment approach. Springer, New York, 2007.

 

Chap 2

From Change to Acceptance: The Mindfulness-Acceptance-Commitment Approach to Performance Enhancement  (変化から受容へ)p. 21

 

過去30年の間よく使われてきたパフォーマンス向上のための心理的手法は、認知―行動療法の伝統(Meichenbaum, 1977)から派生してきた技能トレーニングとみることができる。この方法は思考や情動や身体感覚などの内的状態を自己コントロールできるようにすることを主眼としていた。そのような方法は一般的に心理的技能トレーニング(PST=psychological skills training)とよばれていた。この方法を支えていた考えは、理想的なパフォーマンス状態は精神的面をコントロールする技能を開発しそれを利用することで可能になるということであった。

 自己制御によるPSTでは、目標設定(goal-setting)、イメージあるいはメンタルリハーサル、興奮のコントロール、セルフトーク(自己への語り掛け)、競技前のルーチン(precompetitive routines)、さらにそれらの組み合わせであった

 目標設定:実行結果と実行プロセスに関する短期・中期・長期の目標を設定することが含まれる。

 イメージ:「経験を再生するためにすべての感覚を働かせる」ことと定義されるが(Locke & Latham, 1990), それは技能を正しく実行する準備となる。

 興奮のコントロール(覚醒制御=arousal control):この方法は特に生理的覚醒レベルを自分の意思で制御して、運動の実行のために最適なレベルを作ることを目的とする。‘リラクセーション’‘サイキアップ=精神的活性化’などの技法が使われる。この技法は古典的な自己制御理論に基づいている。

 セルフトーク:自分に語りかけることで、思考の内容と情動の状態を変化させることを通して、成績を向上させることを目的として行われる技法。その技法は、具体的には、認知の再構成や自己肯定(ポジティヴ・セルフトーク)などを含む

 競技前ルーチン:競技の実行前に行われる一定した行動(言語・思考・動きを含む)

 上記のような手続は動機づけや自信や注力や情動のコントロールや気づきを高め、そのことはよりよい成績を生み出す状態を作ると考えられてきた。しかし、実証的証拠に基づいて効果が証明された心理技法を求めている実践家には次のような疑問が残された。有名な心理スキルズ・トレーニング(PST)の専門家たちが有効であると主張し、長年にわたって利用されてきた技法は本当に実証的(科学的)研究による裏づけがなされてきたのだろうかという疑問がもたれるようになってきた。

 

 

The Efficacy of Traditional PST Procedures. (伝統的な心理スキルズ・トレーニング手法の効果)

   Goal-Setting, Imagery, Self-Talk Modification, Arousal Control, & Multicomponent Interventions.

 

この節では、伝統的なPSTの上記のような手法の実証的研究の展望やメタ分析や、効果量(effect size)による効果の検討などを行った諸研究が紹介されている。その結果、伝統的なPSTは科学的な効果の検証には耐えられない、つまり、効果を強く主張できるものではないと結論づけられている。

(訳者の感想:確かに、PSTの効果は「効果があった事例」だけについて報告され、効果が見られない場合には論文として発表されない傾向があった。また、メンタルトレーナーとして名を上げるためには、成功した例だけを述べるか、成功しそうな選手につくことが有利だと考えられた)

Pp. 22-28

 

 

Moving on: New Intervention Directions  (改革:新しい介入法の発展)

 

L.10

 過去数年の研究は、ネガティヴと判断される内的経験が行動に問題を引き起こすとはかぎらないことを示してきた(Hayes, Follere, & Linehan, 2004)。パフォーマンス心理学の研究で注目すべきことは、望ましくない思考や情動を抑圧したりコントロールしたりしようとする試みは逆説的効果を生み出すことを示している。抑圧やコントロールの技法は望ましくない認知−情動的活動が心の中に起こっていないかを検索するメタ認知的精査を引き起こし、その徴候でも見つけるとそれを意識化させる働きをする(Purdon, 1999; Wegner, 1994)

 さらに、Clark, Ball, & Pape (1991)は、思考の抑圧やコントロールは、一層多くの望ましくない思考や情動の生起を引き起こすと述べている。望ましくない思考が活性化されると情動や生理的活性化が起こってくることがしばしばである。そして、過度な認知的活動と課題に不適切な注意の焦点づけが、課題に関連した注意と目標指向的行動を阻害するようになる。この結果が、dysfunctional performance (機能不全の実行)をもたらす。

 逆に、機能的な実行は課題に焦点づけられた注意(task-focused attention)を必要とすることが、実験データによって示されている(Barlow, 2002; Gardner & Moore, 2001)。このときの注意は外的な刺激や、選択肢や、随伴する出来事に向けられている。これに対して内的な思考や心理プロセスに向けられた注意は、自己に焦点づけられた注意(self-focused attention)と呼ばれている。

 このような観点に基づいて、Crocker et al. (1988)はバレーボール選手にストレスマネジメントの介入を行った。その介入法は現時点への注意力を高めるための瞑想法のような技法と、課題に焦点づけられた注意を高める方法と、情動への対処をパッケージとして含んでいた。この研究の結果はアクセプタンス技法の予測するものと一致していた。つまり、不安や否定的な思考には有意な低下は見られなかったけれども、成績は有意に向上していた。この向上は6週間後まで持続した。

 D7Urso et al. (2002)の質的研究によると、「ネガティヴな情動もポジティヴな情動も、個人特有の意味と強度によって、プラスの効果もマイナスの効果もある」ことが示された。

 

 この節をまとめると、現存する研究結果では、パフォーマンスの結果のデータでもプロセスのデータでも、ネガティヴな感情や思考の低減やコントロール、さらには成績の向上への自信のレベルの向上などは十分には支持されていない、ということである。

 従来の internal control-based approach (内的プロセス制御に基盤をおいた方法)は、過度に自己に焦点づけられた認知活動をもたらし、最適な実行を可能にするために必要な課題焦点づけ活動を抑制してしまう。さらには、すでに学習されて自動化された技能の発揮を妨げる。

 従来のメンタルスキルトレーニング(PST)は理論的にも、実証データのうえでも限界がある。そこで、われわれはintegrated model of human performance (人間のパフォーマンスの統合モデル)に則って、MAC という新しい方法を開発した(Gardener & Moore, 2004a, 2006)

 

 

 Mindfulness-Acceptance-Commitment (MAC) Approach      P.30

 

 パフォーマンス向上を目指すMACは、acceptance-basedの行動的介入である。われわれはこの方法を臨床的場面での成功に基づいて開発した。その理由の一つは伝統的なメンタル・スキル技能が成績の向上に役立つということを支持する客観的なデータが十分には示されていこなかったということである。

Acceptance-based approach は Hayes, Follette, et al., (2004)によって臨床患者を対象として成功裏に実施された。Carson et al., (2004)は、人間関係改善に利用した。職場のストレス低減には、Bond & Bunce (2000)が応用した。競技者の成績向上には Gardner & Moore (2004a, 2006)Wolanin (2005)が応用している。

 

 Acceptance-based approachは Hayes, Strosahl, & Watson (1999)によって開発されたものであり、理論的には、重要な発表や試合などで不安を経験し、それを後になって思い出すとき、人は経験した思考に対して不安を経験するという考えがある。実際の課題(外的課題)のみならず、課題の内的経験(課題に関する思考)も情動を引き起こす、と考えられる。このことは、個人の内的経験(思考や情動)をコントロールしようとする過度な努力や、そのような経験を避けようとする努力につながっていく。つまり、思考や情動は束の間の主観的状態であるが、個人はしばしばそれが、善し悪しや正誤や可不可をもって判断すべきリアリティー(現実)であるかのようにその思考や情動に反応してしまう。このような判断は人の選択と行為に影響をあたえ、ネガティヴ、不快、受け入れられないと判断される経験を避けたり逃げたりするような傾向を生み出す。

 バスケットボール選手の例を考えると、不安やネガティヴな考えに反応して、攻撃的でなくなったり、シュートのチャンスを見逃したり、試合に出たがらなくなったりする。先に述べたように、このような心理過程をHayes et al. (1996)experiential avoidance (経験回避)と呼んだ。重要な試合の前に経験される不安や怒りや欲求不満は、「今日は強いストレスを感じる」というような言葉に結びつき、さらに重要な試合を避ける結果につながることもある。この例のように、個人の内的経験によって直接引き出される行動の反応は、rule-governed behavior (法則支配的行動)の一つの例である。この例の場合は、回避的行動は個人的法則(「私は会議が嫌いだから会議を上手に運営できない」、というような法則性)によって直接支配されており、経験された情動や思考の直接的結果である。回避的行動は価値ある目標への専心や自分の好きな仕事への参画の楽しみに付随して選択される行動ではない。

 

 さらに説明するならば、「こんなヤツのために働いていられないよ。ヤツはまったくダメな男だ」とか、「自信がないからショットはしない」というような言葉で人は行動の選択を説明するために内的なプロセスを使っている。内的な“法則”によって支配されている行動は欲求不満や怒りや不安のような内的経験を低減させること(経験回避)を目指している。このような行動の情動軽減機能は価値の高い行動に適応的に集中した行動とは対照的である。適応的な行動とは、上記の例の場合には、会議にいやな相手がいたとしてもその場に適切な行動をとることであり、怪我のリハビリの場合には痛さと退屈に耐えることである。

 すべての実行者は、その技能レベルに関わらず、目先の満足を犠牲にして遠くの目標へ向かって規則的に行動を管理していかなければならないという事実を考慮するならば、rule-governed behavior (法則支配的行動)と values-directed behavior (価値指向的行動)を区別することは、極めて重要である。成績向上のためのMAC技法は現時点での競争的行動を促進させるだけでなく、練習や個人の成長や高度の技能の発展に必要なvalues-directed behaviorsをも促進することが期待されている。

 

 MACアプローチは、個人の内的経験をそれがどのようなものであろうとも受容することを促進すると同時に、たえず変化する生活の状況のなかで、個人にとって価値ある活動と目標に導いていくこのような、適切な反応に個人が集中することを促す。成績向上のための伝統的方法が競争行動にのみ焦点を当てているのに対して、MACは競争行動の向上だけに限定することなく、意思決定や問題解決や日常生活の行動プロセスの向上を目指している。

 

P32

 

 このテキストの後半では、MACの詳細な技法が示されるが、その目的はつぎのようなものである。

(1)注意深く、非判断的な、現時点への注意の集中。(マインドフルネスとして後に議論される。

(2)思考・情動・身体感覚などの内的プロセスを受容すること。(人間の経験にたいして自然であること。=as natural to the human experience)。

(3)内的な経験を回避しないで感じ続けること

(4)個人の成績の向上や価値の実現のために、実行に関連する手がかりや、実行の結果や、状況に相応しい行為に注意を集中すること。(コミットメント)。

 

 このような状態はフロー状態とよく似ている(Csikszentmihalyi, 1990)Russell (2001)は競技者はフローの状態で、運動の自動化や、思考や感情を感じないことや、外界への高揚した意識などを経験していると述べている。

 MACの基本には、適切な機能の発揮には思考・情動・身体感覚などの経験への柔軟な対応が必要とされる。困難な内的経験から注意を逸らしてしまうこと(つまり、経験回避)は行動の機能低下をもたらす中心的要因であると考えられる。このようなMACの考え方は古典的な認知療法的介入法とは対照的である。古典的介入法では情動経験はネガティヴあるいは非合理的認知内容の副産物であるとみなされてきた。古典的な認知理論では人は考えるように感じ、その感じ方に基づいて行為すると考えられた。

 

P32の終わり

平成2359

 

「人間のパフォーマンス向上の心理学:マインドフルネス―アクセプタンス―コミットメント・アプローチ」(第2章要訳―2)

 

from P.33,

 アクセプタンスに基礎をおいた方法と同じように、MACも従来の認知的アプローチとは異なった立場をとる。

内的な経験をコントロールしたり弱めたりすることが理想的なパフォーマンス状態を作る方法であると考える代わりに、のアプローチは、時々刻々と変化する各時点における認知・感情・感覚を注意深く、しかし価値判断を伴わずに意識し、それを受け入れることを強調する。
 

 

 

 

 


 人は、思考したり、感情を持ったり、身体感覚を感じないわけにはいかない。それらを抑圧しようとしても、そのような経験は自然に生起する出来事であり、一般には、人間の経験の正常な副産物として現れては消えていく。

 人間の機能における情動の有効な役割についての近年の研究によれば、自分の情動をよく意識し(たとえそれがどんな情動であっても)、その情動の意味を理解できて、情動が発する情報を利用できて、現実の脈絡の中で経験を制御する人は、成績向上や生活の全般的要求に対してより効果的に対処できることが期待される。このように、個人にとって価値ある目標に近づくために、情動経験に注意を向け、その情報を処理し、その結果に基づいて行動する能力はemotional intelligence (EQ)とも呼ばれている (Mayer, Salovey, Caruso, 2004)

 逆に、Lynch et al. (2001)は、情動の抑制は、病人の場合も正常者の場合も、情動が強い時には心理的なストレスを生み出すような効果があることを示している。しかし、情動の強さそのものがストレスを生み出すのではなく、むしろ情動経験を抑制したり回避したりしようとする個人の試みがストレスの原因となっているようである。

 アクセプタンスの理論からみると、人間の難しいところは、人はその認知プロセス(つまり内的言語)のよって影響を受け、自分の考え、信条、態度などを絶対的な真実と見なし、出来事の前提条件であり行為の原因であるとかんがえてしまう傾向があることである。そのために、人は外界の現実や要求に対して行動するよりも、行動の選択は思考や情動や身体感覚は何らかの行為を即座に要求していという信念に影響を受けて決定される。その結果、行動の選択は個人にとって意味のある価値(例えば、最高の達成とか、ストレスの下で戦略を守り抜くなど)と関わるようにではなく、当面の不快を避けたり、受け入れられたりしないような内的経験をしないようにして実行の決定がなされる。

 そのような心理的プロセスの実例としてつぎのような例を考えることができよう。成績不振のセールスレディがもっと頻繁に顧客を訪問する必要があると命じられたとしよう。彼女は訪問しても注文が取れないときのことを考えて不安になり、注文を取ることはできないと考え始める。そこで、職を失ったらどうしたらいいか考えるようになる。その考えは彼女を一層不安にする。彼女は自己指向的・将来指向的思考に囚われてしまい、出来ないと思うことは実際にできないことだと信じるようになる。そして、仕事を早めに切り上げて飲み友達と出かける行動を選択するようになる。この選択は内的プロセスの混乱とそれに結びついた不安を鎮めるという当座の目的のためには役立つが、そのようにして回避行動を強化してしまう。この行動の選択はセールスの成績の向上には役に立たない。成績向上のためには、不快な内的経験があったとしても、目的に関わる行動に関与し続けることが必要なのである。

 

 MACにおいては、willingness (意欲・気乗り)とcommitment (積極的関与)の、acceptance (受容)に基づく方法に関連した、2つの概念に焦点があてられる(Hayes et al., 1999)

 Willingness (意欲・気乗り)は、思考・情動・感覚を、それらが快であるかどうかに関わらず十分に経験しようと決心することを意味している。生活・人生をそれが生じたままに十全に経験しようとする意欲(willingness)は、個人に人間であるかぎりは避けることのできない不快な瞬間を避けようとするのではなく、人生のすべての面を受容することを可能にする。このような意欲は行動の選択を不快な情愛からの即座の解放のために行うのではなく、本当に価値をおいた目標のために行うことを可能にする。

 Commitment (積極的関与)は、個人が価値を認めた目標を追求することを可能にするような活動に役立つ行動を積極的に選んでいく過程として定義することができる。

 

 上記のような概念を議論する際に、われわれはしばしばmindful awareness (注意深い意識)というような言葉を使用する。Mindfulnessの能力を高めることは、MACの基本であり中心的課題である。マインドフルネスは、内的経験の注意深い意識化と、個人の思考・情動・身体感覚を反応すべき「現実」としてdefuse(価値づけをせずに、冷静に)見つめることを促進する過程とみることができる。一つの過程として、マインドフルネスは、現時点への高められた意識の焦点づけの一つの形式とも見ることができる。Kabat-Zinn (1994, p.4)は「意図的な注意の向け方の一つの方法であり、現時点への価値判断を行わない注意」と述べている。

 臨床的技法としてのマインドフルネスはさまざまな問題に適用されている。境界性人格障害、ストレスと不安、うつ、などである。

 

 成績向上を目的としたMAC技法においては、当面する現実に対する非判断的、非評価的注意が強調される。そこでは、個人の意識に入ってくる内的そして外的の出来事は、善し悪し、正誤、有益無益の判断を下すことなく意識される。つまり、個人は経験を判断したりコントロールしたりすることは反対の仕方で、その経験を観察し記述することを教えられる。このような目的の下に・・・、

 

 Mindfulness (注意深くあること)の実践は、人生の出来事に対してmindless(注意不十分)な反応をすることではなく、mindful (注意深く)反応することを促進する。

 

 マインドフルネスは、瞑想を含む練習によって開発することができる、注意のテクニックの一つである。この技法は成績向上のための現時点への注意の自己制御とみることができよう。

 

 マインドフルネス技法は現時点への注意を高めるだけでなく、懸念や不安の状態での言語の働きを抑える効果が示されている(Roemer & Orsillo, 2002)。第1章で示したように、懸念を持つ状態ではイメージや自動化された活動は抑制され認知的活動が優勢になっている(Borkovec et al., 1993)。パフォーマンス心理学は、エリート競技者のパフォーマンスでは、左半球の活動の低下、つまり言語活動の低下が示されていることに留意すべきである。認知的活動の活性化はパフォーマンスにとって妨害的であることが示されているので、認知的活動を抑制する何らかのコントロール技法が必要であるということが理論上は導かれる。しかし、すでに議論したように、コントロール技法そのものが認知的活動を必要とするものであり、認知的コントロール技法を行う際に要求される「自己への焦点づけ」は逆の効果を発揮することが理論的に予想される。つまり、認知的活動を低減させるための直接的努力は一層の認知的活動を活性化させ、その結果、成績の低下につながってしまう。マインドフルネス技法はコントロール技法とは異なった作用をし、逆説的効果を及ぼすことなく認知活動の低減という目標を達成することができる。

 

 マインドフルネスは成績向上にとって、4つの基本的プロセスをとおして効果を発揮すると考えられる。

 (1) 高められたマインドフルな注意は、思考・情動・身体感覚などの個人の内的経験をコントロールする努力を低減させるというMACの目的を促進させる。

 () 高められたマインドフルな注意は、情動の経験にポジティヴな影響を与える。近年の研究は、マインドフルネスの介入は左半球前頭野を強く活性化することを示している。ここは快の感情と関係のある部分である。さらに言うならば、マインドフルネスはある情動に対して個人が習慣的に自動的に反応してきた行動を変更する可能性を示している。ある種の情動を喜んで受け入れるように情動経験を変化させることによって、それまでにその情動に自動的に示してきた行動的反応を修正できるようになるということである。特にある情動に基づく回避的な反応の修正によって、状況に適応した柔軟な行動を選べるようになっていくと考えられる。

 (3)マインドフルネスは個人に個人の思考の内容をそれに対して反応すべき絶対的な現実ではないことを教えることによって機能するようになる(Wolanin,2005)。このような機能はメタ認知的意識とよばれる。その機能を育てることは、思考や情動を単に思考や情動にすぎないとみることができるようにすることを学ぶことである(Teasdale et al., 1995)。そこでは、思考や情動は個人に変化を求めることのない、単なる一過性の出来事にすぎないと考えられる。そうではなく、思考や情動を即座の反応を必要とする絶対的な現実であると考えるならば、rule-governed behavior (法則支配的行動)が生起しやすくなる。この法則支配的行動は、状況の変化に適切に反応する行動ではなく、個人の内部に強く形成された法則に基づいた、過度に一般化された行動である。また、法則支配的行動は行為とその結果をつなぐ個人の言語的法則に基づいた特有の行動によって影響を受ける(―――したら、―――となるだろう、というような行為と結果の個人の信じている法則性)。

 法則支配的行動は、環境の中の現実的手掛かりや偶発的事態に対して効果的に反応する感受性と対応能力を低めることになるとHayes et al, (1989)の研究は指摘している。そのような観点からすると、マインドフルネスをたかめることは苦しい思考の頻度を少なくすることでもなく、それを目指しているわけでもない。むしろ、マインドフルネスは個人の思考と内的法則を単純に信じることをやめさせることを狙っている。そうすることによって・・・・、

マインドフルネスは環境の与える手がかりと変化に対する個人の感受性を高め、行動の柔軟性を促進する。

さらには、内的法則を崩すことはネガティヴな自己判断から個人を自由にすることにもつながる。

 (4)マインドフルネスは、注意の焦点を情動を引き起こす刺激や個人の内的プロセスに向けさせるのではなく、実行に関連する手掛かりとその付随事態に向けさせることによって成績の向上に役に立つ。課題指向的な注意を可能にするために、マインドフルネスは注意を個人が注意を向けている対象に向けさせるだけではなく、注意のプロセスに向けさせることを助ける。そのために、個人の注意の焦点は、状況の変化に従ってよりよく変化することができる。

 簡単に言うならば、マインドフルネスの技法の発展は、必要とされるものの上に注意を当て、不必要なものには注意を当てないことを可能にする。この点に関して言えば、最近の研究は、マインドフルネスは現時点での要求と関係のない思考の反芻を停止させることに特に効果があることを報告している(Teasdale et al., 1995)

 注意プロセスの自己制御を高めることに関連した問題をKlinger et al., (1981)Edwards et al., (2002)の研究の中に見ることができる。両方の研究において、ゲームに関連した外的な刺激から成績の内的自己評価への注意の移行は、試合の最中の破滅的な成績の低下につながっていることを示している。しかも、高レベルの競技者においてである。

 さらに最近の研究では(Bogels et al., 2006)、マインドフルネスを応用した課題への集中の手続は、自己焦点づけの注意を減らし、課題焦点づけの注意を増し、社会的状況での実行不安(これは機能不全の一つの形態であるが)を低減する効果があることが報告されている。

 

 

MAC プロトコルの研究

 伝統的な心理的技能トレーニングの効果を示す実証的な証拠が不足しているなかで、MACが成績向上に効果があるという実証的データの数は増加している(Gardner & Moore,2004a2006; Gardner et al., 2005; Lutkenhouse et al., 2007; Wolanin, 2005)

 Wolanin (2005)は、11人のDivision 1の陸上競技者を対象にMACプログラムを実施した。その結果、MACを練習した群は成績の自己評価とコーチの評価で統制群よりよい結果を示した。集中力や攻撃性でも統制群より良い評価を得た。

  Lutkenhouse et al. (2007)は、MACと伝統的な心理技能トレーニングの成績向上への効果の比較を118名の競技者を対象に行った。Division 1 の3つのチーム(男子サッカー26名、女子サッカー17名、女子ホッケー17、計60名)が、週1回のMACプロトコルを7セッション行った。MACの介入を受けた群は、アメリカオリンピック協会(USOC; 1999)の心理技能トレーニングを7セッション行った群(男子レスリング30名、男子ボート14名、女子ボート14名、計58名)と比較された。USOC群は目標設定、イメージ、リラクセーション・ストレス・マネジメント、ポジティヴ・セルフ・トーク、覚醒コントロール技法などを練習した。2つの群は介入前に競技者とコーチによる成績の評定を受けたが、差はなかった。介入前から介入後へかけての変化のコーチによる競技者の評定では、MAC群は32%が向上しUSOC群は10%が向上を示した。MAC群の向上者の割合は有意に優れていた。

 また、MAC群は攻撃性の増加、経験回避傾向の低減、フロースコアの向上の点でUSOCの心理技能訓練を受けた群より優れていた。これらの心理的変化はつぎのような尺度で測定された。経験回避:Acceptance and Action Questionnaire、課題への没頭:Flow Scale、マインドフルな意識・注意:Cognitive ad Affective Mindfulness Scale.

  上記のような研究は、マインドフルネス技法とアクセプタンスに基づく行動の方法の統合は最高のレベルの成績を目指す競技者に効果的に応用されるという仮説を支持している。MACの効果は客観的なデータとコーチの評定によって確かめられたが、そのほかにもつぎのような効果が観察された。(1)集中と非回避性の評価の増大、(2)マインドフルな意識と注意の増強、(3)ネガティヴ思考を信じなくなり、回避行動を行わなくなる、(4)課題の実行中のフロー感覚の向上。

 

Conclusion は省略。

 

(2011年5月5日)